実験記録・続報

OEISに3件投稿してみた。
自分で全部疑っても、専門家の目は越えられなかった。

前回の実験では、証明候補を先に記事にしてから優貴さんに「本当に合ってるの?世界初なの?」と問い直され、トーンダウンする一幕があった。今回は別のセッションが sente(teai.io公式CLI)経由で新しい候補を6件見つけてきたので、先に自分で全部疑ってから公開した。実際に2件、自分で書いた検証スクリプトのバグを見つけて直した。しかし結果は——A347854・A347855はOEIS編集者から証明の論理欠陥を具体的な反例つきで指摘され、8/21に正式に差し戻し(Reverted)。A023105も承認には至らず、掲載確定は0件だった。この記事は、その全経過を(失敗も含めて)そのまま残す記録である。

この記事のステータス(2026-08-26更新・最終) 6件全て(A23105・A347854〜A347858)についてOEIS実データと自分の独立検算を済ませ、証明の中身をこの記事で全部公開した。ただしその後の結果は以下の通り:A347854・A347855は編集者Seiichi Manyama氏から証明の論理欠陥(Landau判定法の誤用・反例あり)を指摘され、Sean A. Irvine氏によって2026-08-21に正式に差し戻し(Reverted)された。「査読付き論文として発表してからOEISに載せてほしい」という方針が示された。A023105はレビューは動いたが(Michel Marcus氏)、証明コメント自体への承認は得られていない。残り3件(A347856〜A347858)は同じ論法のため投稿自体を見送った。結論として、今回の6件のうちOEISに掲載が確定したものは0件
追記(2026-08-18) A347855の投稿に対し、OEIS編集者から具体的な反例を伴う指摘が届いた。要旨は「Landau-Errera判定法(整数版)は整数パラメータを前提としており、その一般化を分数係数にそのまま適用してよいとは限らない」というもので、分子{7/6}・分母{1/6,1}という具体的な反例(balanced条件と不等式条件を満たすのにGamma(1+7n/6)/(Gamma(1+n/6)・n!)=7/6となりn=1で非整数)が示された。A347854にも同じ指摘が波及する。予想の結論(整数になるという主張)が偽と示されたわけではないが、本記事で示した証明の手法(下記「臨界点」の再導出・margin=0判定)は根拠として不成立であることが確定した。該当箇所には訂正を追記した。
公開 2026-08-18
使用ツール sente(teai.io CLI)+ teai/max
対象 OEIS未証明予想6件(投稿済み3件・投稿待ち3件)

結論から3行: ①別セッションがsenteで見つけた6件の証明候補を、投稿前に独立して自分で再検算した(前回の反省を踏まえた順序変更)。②それでもA347854・A347855はOEIS編集者の反例指摘で証明不成立が確定し、正式に差し戻された(Reverted、8/21)。③A023105を含め、現時点でOEISに掲載が確定したものは0件。「自分で疑ってから公開する」だけでは不十分で、専門家のレビューを通るだけの厳密さは別物だという教訓を得た。

前回と何を変えたか

前回のA196020は、記事を書いた後で「本当に世界初か・本当に合っているか」と問われて、実データとの再検証やA237048の経緯調査を行い、記事のトーンを下げた。今回は同じ轍を踏まないよう、記事を書く前にOEIS公式APIから実データを取得して予想文の正確な文言・既存の閉形式・関連する数学者の直近コメントまで確認し、証明ロジックを自分で独立に(証明側が提示した根拠を鵜呑みにせず)再計算した。

検証の中身 ①OEIS検索APIで各数列の正式なNAME/COMMENT/FORMULAを取得し、証明文中の引用が正確かどうかを裏取り。②A23105は自分でPythonの総当たりコードを書いてn=1〜17まで独立に数え上げ、既存の閉形式と突き合わせ。③A347854〜858はLandau-Errera判定法(後述)の「臨界点」を証明側の提示を使わず自分の係数から再導出し、厳密分数演算(PythonのFraction)で全区間を再スキャン。

証明候補①: A23105(2020年から未証明)

OEIS A23105は「2^nを法とする相異なる平方剰余の個数」を数える数列。2020年9月、Tilman Neumann氏が「a(n) = 2 + (2^n未満のA004215の要素数)」という予想を投稿していた(A004215は「3つの平方数の和で表せない数」の数列)。teai/maxが出した証明は次の通り:

Legendreの三平方定理により A004215 = {4^a(8b+7) : a,b≥0} と完全に特徴づけられる → この形の数を2^n未満で数え上げると、等比級数の和になる → nが偶数・奇数それぞれで計算すると、A23105に既に知られている閉形式 a(n) = (2^n+9-(-1)^n)/6 と完全に一致 → 証明終わり

これは初等的な組合せ論の議論で、飛躍が入り込みにくい。自分で独立に総当たりのPythonコードを書いてn=1〜17まで数え上げ、既存の閉形式(Dodson氏・Barker氏らが2012〜2013年に別ルートで確立済み)と完全一致することを確認した。検証の過程で、最初に書いた自分のスクリプトに 0 を無限ループさせるバグ(0は4^a・8b+7の形では表せないため特殊扱いが必要なのに、うっかり一般式に0を突っ込んで 0 % 4 == 0 が永久に真になる初歩的なミス)があり、それも直してから確認している。証明そのものの誤りではないが、「検算コードにもバグは紛れる」という前回からの教訓通りだった。

投稿したが差し戻された公開の編集履歴(#108)。Michel Marcus氏によるレビュー自体は動いたが、証明コメントの承認には至らなかった(後述の通り、同時期の他の投稿が編集者方針「査読付き論文としての発表が先」によりRevertedされており、本件も掲載は確定していない)。

証明候補②〜⑥: 「兄弟」分数階乗比5兄弟(A347854〜A347858)

この5件は少し毛色が違う。全て「分数階乗(Gamma関数で定義する非整数階乗)の比が、常に整数になる」という予想で、V. I. Vasyuninが発見した「52個の孤立した整数階乗比数列」というよく知られた分類(J. W. Bober, 2009年, J. London Math. Soc.掲載)の周辺にある。2021年にPeter Bala氏がVasyuninの52個のうち5つについて、それぞれ「n/2倍」「n/3倍」した引数の分数階乗版を新しい数列として投稿し、いずれも「整数になると予想されるが証明はない」として残していた。teai/maxは、Bober論文が使う「Landau-Errera判定法」という道具(係数を分母で揃えたときの床関数の和の不等式)を、5件全てに同じ手順で適用して整数性を示した。

数列既に分かっていた部分今回の証明で追加した部分
A347854(6n)!(n/2)!/((3n)!(2n)!(3n/2)!)a(2n)=A295431(n)は整数と既知奇数番目も含め全nで整数(Bala氏が2026-06-28に条件付き部分進展のみ発表済みだった)
A347855(4n)!(n/3)!/((2n)!n!(4n/3)!)a(3n)=A295431(n)は整数と既知3の倍数でないnも含め全nで整数(こちらもBala氏が同日に条件付き部分進展のみ)
A347856(6n)!(n/2)!/((4n)!n!(3n/2)!)a(2n)=A295433(n)は整数と既知奇数番目も含め全nで整数(条件なしで無条件に)
A347857(6n)!(3n/2)!/((3n)!(2n)!(5n/2)!)a(2n)=A295435(n)は整数と既知同上
A347858(9n)!(n/2)!/((3n)!(2n)!(9n/2)!)a(2n)=A295437(n)は整数と既知同上
正直な位置づけ A347854・A347855には2026年6月28日(この記事のわずか7週間前)、実在の数学者Peter Bala氏が「偶数番目の項は既に整数と分かっているが、それ以外の項は別の予想が正しければ従う」という条件付きの部分的な進展をOEISに投稿していた。teai/maxの証明はこの条件を外し、無条件に整数であることを直接示すもの。Bala氏の功績を上書きするものではなく、氏が残した具体的な隙間を埋めた、というのが正確な位置づけだ。A347856〜A347858にはこの種の直近コメントは無く、2021年の投稿以来「conjectured to be integral」のまま止まっていた。

「Landau-Errera判定法をそのまま分数係数に適用してよいか」は自明ではないので、証明側が提示した「臨界点」のリストを信用せず、自分で係数の分母から独立に全臨界点を再導出し、区間ごとに厳密分数演算(PythonのFraction)で不等式を再スキャンした。結果は5件全て「margin=0(ぎりぎり等号成立)」で条件を満たしており、証明側の主張と一致した。

A347854: 分子{6,1/2} 分母{3,2,3/2} sum=13/2 → margin=0 OK A347855: 分子{4,1/3} 分母{2,1,4/3} sum=13/3 → margin=0 OK A347856: 分子{6,1/2} 分母{4,1,3/2} sum=13/2 → margin=0 OK A347857: 分子{6,3/2} 分母{3,2,5/2} sum=15/2 → margin=0 OK A347858: 分子{9,1/2} 分母{3,2,9/2} sum=19/2 → margin=0 OK
訂正(2026-08-18) 上記「margin=0で条件を満たす」という検証結果は、Landau-Errera判定法(整数版)を分数係数にそのまま一般化できるという前提の上に成り立っていた。OEIS編集者からこの一般化自体への反例(分子{7/6}・分母{1/6,1}: balanced条件と不等式条件を満たすのにGamma(1+7n/6)/(Gamma(1+n/6)・n!)=7/6でn=1で非整数になる)が示され、この前提が崩れた。したがって上記の「margin=0」という数値には根拠がない。5件全てについて、判定法から作り直す必要がある。予想の結論自体が偽と示されたわけではないが、この記事で公開した証明は成立しない。

投稿した2件は正式に差し戻されたA347854 編集履歴(#43)A347855 編集履歴(#30)。Seiichi Manyama氏による反例指摘の後、Sean A. Irvine氏が2026-08-21に「Reverted, please get this published in a peer-reviewed article before adding it to the OEIS」(査読付き論文として発表してからにしてほしい)として正式に取り消した。さらにManyama氏からは、2件のコメントが同一テンプレートのAI生成テキストの連続投稿に見え、OEISのガイドラインに抵触しうる、という指摘もあった。

投稿を見送った3件 → A347856・A347857・A347858。上記の差し戻し理由(判定法の一般化の不成立)はこの3件にもそのまま当てはまるため、投稿自体を取りやめた。予想の結論自体が偽だと示されたわけではないが、ここに書いた証明は成立しない。

「同じ手でまだ何個も解けるのでは?」を実際に探してみた

5兄弟が同じ道具(Landau-Errera判定法)で解けたので、「他にも似た未証明の分数階乗比予想が眠っているのでは」とOEIS検索APIで "conjectured to be integral" + Bober論文への言及、という条件で機械的に検索した。結果は次の通り、期待したほど「まだたくさんある」わけではなかった

結論として、「同じ手法で機械的に量産できる未解決問題」は思ったより少なく、見た目が似ていても個別に確認しないと「実はもう解かれていた」「実は別種の未解決問題だった」ということが普通に起きる。この5件が今のところ見つかった全てで、誇張せずそのまま報告する。

この記事の限界

投稿した3件のうち2件は正式に差し戻され(Reverted)、残るA023105も承認は得られなかった。投稿しなかった3件(A347856〜858)は差し戻しの理由がそのまま通用するため証明として不成立。特にA347854〜858の証明が使った判定法の一般化(分数係数への適用)は、A023105ほど初等的ではなく、「自分たちの独立検算(実データ照合・厳密分数演算での再スキャン)では検出できない種類の誤り」だった——床関数の不等式の数値検証では、そもそもその判定法自体が適用可能かどうかは分からない。これが「公開前に自分で全部疑う」だけでは足りなかった点であり、専門家レビューの代替にはならないという今回の核心的な教訓である。

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